疼痛管理よりも重要
Prince-Paul助教授によると,終末期に感情的,心理的苦痛を経験する患者を治療する医師は,親族関係の問題を正面から評価し,家族に関連する議論を促すことにより患者のQOL改善を手助けすることができるという。
このような努力により,患者が自ら追求してきた人生の達成感が得られるようになるが,これは疼痛や生理的な症状の管理よりも重要な場合があると述べた。
精神的健康状態がQOLに最重要
Prince-Paul助教授らは,認知状態に問題がなく,自ら許容できる疼痛の発症率を報告できるホスピス患者50例(平均年齢60歳)を対象としたパイロット研究により,QOLサブ尺度の相関を評価した。特に人生の達成感,死への準備,伝達行為,精神的健康状態・社会的健康状態が総合的QOLにどのように影響するかを評価した。
その結果,精神的健康状態は総合的QOLに関して最大の予測因子であった。一方,ホスピスのスタッフが患者を苦しめている可能性のある親族関係の問題に正面から取り組むことで,心理的健康状態の改善に重要な役割を果たせることが明らかになった。
同助教授は,今後の研究で学際的なアプローチを用いて,これらのインターベンションの効果を調べ,親族関係のコミュニケーションを促進することでQOLが次第に改善するかどうかを調べるべきであると報告した。
メディカルトリビューン 2007年4月12日
医師自身が上限を設定
同研究所とBrigham and Women's病院(ボストン)の疼痛緩和医療プログラムの管理者であるAbrahm博士は「患者の自己申告による痛み,あるいは表情で明らかに我慢できない痛みであるとわかっても,医師はオピオイドの増量をためらうことが多い。これが疼痛管理における最大の障壁である。われわれ緩和医療専門医の役割の1つは,オピオイドの高用量使用で患者の快適度は上がるということを他の医師にも教示することだ」と述べた。
さらに,同博士は「担当医の多くは,慢性疼痛あるいは重度の急性疼痛を訴える患者に短時間作用型オピオイドを使用する際に"除痛ポイント"閾値を医師自身のなかで決めている傾向がある。もし単独の薬剤で疼痛管理が不十分な場合は他の薬剤を併用するが,それらはいずれも有効投与量を下回っている。医師が満足� ��る最大投与量に達しているときには,必ず別のオピオイドも投与され始めている。そのため,例えば2〜3種類のオピオイドとフェンタニルパッチなどを用いた間に合わせの治療に終わってしまうことになる。十分な疼痛コントロールが提供されていないというよりも,むしろ医師の自己満足の範囲から外へ踏み出していないことを裏づけているだけである」と説明している。
メディカルトリビューン 2007年5月31日
「多くの患者がひどい痛みのために鎮静されてしまう用量の麻薬を必要とする場合も多い。倦怠感が強いために起き上がったり、動き回ったりすることができない患者も多い。このような患者は一日の大半を座った状態や、ベッドに横たわった状態で過ごしている」と、Cancer Treatment Centers of America(イリノイ州)の統合医学部門副責任者であるTimothy C. Birdsall博士は語る。
Birdsall博士らは、進行膵臓癌で、化学療法を受けた患者(一部の患者は放射線療法も併用)50例を対象とした試験を実施した。
被験者はすでに疼痛のため麻薬および抗炎症薬の投与を受けていた。「倦怠感のためにできることはまったくない」とBirdsall博士は述べる。
被験者50例中36例は、主として緑茶抽出物、メラトニン、高力価マルチビタミン(ビタミンC 1,000mgおよびビタミンE 400国際単位以上を含む)からなる補助療法を受けた。
試験開始時には、補助的治療を行った群では、疼痛が耐えられる範囲と判定された被験者は40%であり、6ヵ月後には67%で疼痛が耐えられる範囲となった。
対照的に、補助的治療を行わなかった群では、開始時に疼痛が耐え切れる範囲であったのは35%で、6ヵ月時にはこの数字が22%に低下したことが本試験から明らかになった。
m3.com 2008年2月14日
同博士らは,この基本となるのは詳細な病歴聴取と診察で,両者により症状の重症度を決定し,根底にある原因についての手がかりを引き出すことができると解説している。
Wood博士らは「最も可能性の高い原因が特定されると,臨床医は悪心・嘔吐の原因となっている機序,特定の伝達物質,受容体を識別する。その後の薬剤治療は,関連する受容体に対して適切な拮抗薬を処方することが中心となる」と述べている。
しかし,投与量が十分で,24時間予防的投与を行っている場合でも,症状の緩和が得られないことがある。そうした場合には,複数の嘔吐経路を抑制するために,いくつかの治療法を組み合わせた経験的で試� ��的な治療を行うべきである。
また,経口投与が賢明でない場合には,坐剤,皮下注射,口腔内溶解錠などの代替投与経路を考慮すべきである。
複数の研究で,念入りな病歴聴取や診察により,必要不可欠な情報が得られることが示されている。ホスピス患者61例を対象とした 研究では,これらの患者の75%で,悪心・嘔吐の原因を確実に突き止めることが可能であった。最も多い原因は,化学的異常(代謝,薬剤,感染,計33%),胃内容排出障害(44%),内臓や漿膜の問題(腸閉塞,胃出血,腸炎,便秘,計31%)であった。
緩和ケアにおいて40の患者エピソードの悪心・嘔吐を検討した他の研究では,可逆性の原因が59件特定され,薬剤(51%)と便秘(19%)が最も多かった。
同博士らは「患者が食欲不振を訴えている場合は,恒常的に低度の悪心を呈している可能性があるため,特に注意を払うべきである。また,終末期の全患者では便秘を取り除かなければならない」と述べている。
メディカルトリビューン 2008年2月21日
ブリストル大学緩和ケアのColette Reid上級講師らは、「患者の間でオピオイドは死を早めるという考えが広まっている」と述べ,「患者はオピオイドを処方されると死期が迫ったと感じるため,疼痛管理に大きな影響がある」としている。以前の研究では,がん患者の40〜70%はさまざまな理由により正しい投薬で疼痛を適切に管理されていないと推定されている。
同講師は,モルヒネなどのオピオイド処方を最初に勧められたとき,患者がどう反応するかを調査したいと考え,55〜82歳の転移がん患者18例を対象にがんの疼痛管理に関する綿密な聞き取り調査を行った。
患者は全例白人で,半数が女性であった。モルヒネに対する見解と経験は,相互に関連する 4 つのカテゴリーに分類された。つまり「死の予想」,「最後の手段としてのモルヒネ」,「専門家の役割」,「仕方なく始める」であった。
多くの患者が"最後の手段"としてモルヒネを捉えていることが判明した。Reid講師らは「がん患者はオピオイドが"最後の手段"としてのみ利用される医療行為と捉えているため,疼痛緩和のためにモルヒネを勧められた場合,自分の死期が近いと考えてしまう」と解釈した。
また,同講師らは「患者は死ぬ覚悟ができていないため,結果として痛みを経験するとしても,鎮痛薬としてモルヒネなどのオピオイドを拒否した。専門家の役割に対する患者の意見から,患者がオピオイドに対する専門家の信頼を評価していることがわかる。したがって,患者の一部は選択を迫られるとより大き な恐怖を感じるかもしれない。なぜなら,これは鎮痛薬としてのオピオイドを患者が信頼していないことを示しているからである」と述べている。
患者と臨床医の教育が必要
Reid講師は「われわれの聞き取り調査から,患者はモルヒネに対する専門家のためらいを感じ取り,これが患者の不安を高めることが判明した。患者はまた,専門家が(誤解であるが)モルヒネを使うことで死期を早めることを心配しているとし,この不安を親族に話していた。オピオイドと疼痛管理について医学生の教育は改善されつつあるが,現在われわれが実施している別の研究によると,専門家への教育の必要性は明確であることが示されている。緩和ケアチームは専門家と患者の双方を教育することができるので,その役割は重要である」としている。
腫瘍治療研究ロマーニャ科学研究所(伊)の緩和ケアユニット責任者であるMarco Maltoni博士は,「患者がオピオイド治療を開始するか否かを決断するときに検討する3大要素は,専門家の能力,正しいコミュニケーション,信頼関係である」と述べている。
衝撃のエアウェーブ
同博士は「緩和ケアの誕生した場所で実施された今回の研究は,オピオイドに対する大きな不安と緩和ケアの方針がまだ十分に定まっていないという気がかりな点を示している。これは,長年の健康教育が期待されていたような結果をもたらしていないことを示唆している。現在も多くの腫瘍学者ががんの末期になるまでオピオイドの使用を控える傾向があるという問題が残されている。疼痛管理と緩和ケアは終末期だけでなく,その前の段階のがんにも積極的な選択肢とすることが必要である」と結んでいる。
メディカルトリビューン 2008年4月3日
がん患者の多くはその経過中に倦怠感を自覚する。その一部は特異的要因(うつ,不眠,感染症,電解質異常,抗精神病薬など)であるが,多くはいわゆる"癌性悪液質"による非特異的倦怠感と考えられており,臨床現場では対処に難渋するために有効な薬物療法が待ち望まれていた。
昨年(2007年)筆者は,がんの倦怠感に有効性が証明されているのは精神的サポートプログラム,運動療法,エリスロポエチン製剤のみであり,その時点では精神刺激薬メチルフェニデート(商品名リタリン)の有効性は証明されていない,ことを報告した。
メチルフェニデートはHIV患者の倦怠感を改善することから,がん患者のそれも改善するのではないかと期待されていた� ��剤であるが,プラセボを対照とした単独の臨床試験では有用性が示されていなかった。
今回,Mintonらはメタ解析の手法を用いて,単独の臨床試験では有効性が示されなかった2報告を合わせて解析した。これらの2報告では,有意差こそ得られなかったが,いずれもメチルフェニデート投与群で倦怠感の改善傾向があり,症例数が少ないことによる検出不足が推測されていた。
がん患者の倦怠感において,メチルフェニデート投与群ではプラセボ群に対し,有意に良好な改善を示した。
メチルフェニデートは,わが国ではがんの倦怠感に保険適用がなく,現在,一般病棟や外来での投与は困難であるが,十分な知識や経験を有する緩和ケア医に限り投与できるようなシステムが必要かもしれない。
また,わが国� �汎用されている副腎皮質ステロイドはQOL全般を軽度改善するが,今回の論文ではその副作用のために使用は制限されるべきである,と記載され,倦怠感をターゲットにした副腎皮質ステロイド投与の論文が少ないため,メタ解析の対象となっていない。
メディカルトリビューン 2008年6月4日
Schlisio博士らは,激痛のために救急外来に搬送された45歳の女性患者に対し,フェンタニル150μg/時,モルヒネ徐放剤90mg/日,novaminsulfone 1gの1日4回投与を実施したが,疼痛は疼痛スケールで安静時に8,負荷時には10(max)に達していた。
そこで10分ごとにモルヒネ10mgをボーラス投与したところ,45分後の安静時疼痛は疼痛スケールで4まで緩和されたが,負荷時疼痛は変化せず10のままであった。そのため,患者は全く動けず,必要な褥瘡治療すらできない状態であった。モルヒネの影響で徐々に鎮静できたため,疼痛緩和療法が奏効しない原因はモルヒネ耐性の発現ではないことが判明した。
また,随伴する精神疾患(うつ病)などの他の要因も認められなかった。同症例においては,疼痛が完全にはオピオイド感受性ではないことが原因と考えられた。
さらに,MRI検査で仙骨脱臼骨折が判明し,負荷時の激痛の説明が付いた。このような場合には,全身� ��オピオイドの効果には限界があることが経験上知られている。
そこで,モルヒネとブピバカインを脊髄硬膜外カテーテル経由で投与したところ,最悪の状況から脱することができた。患者の眠気はそれほどひどくなくなり,車いすに座ることも褥瘡治療をすることも可能になった。
モルヒネのボーラス投与
モルヒネのボーラス投与は持続投与より効果が高い。疼痛の50%緩和効果が得られるのは持続投与では約7時間後であるのに対し,ボーラス投与では約60分後である。10分間隔で投与する際の必要量は,患者がそれまでに投与されていた薬剤の非経口モルヒネ相当量の合計から算出される。
今回の症例では,フェンタニル150μg/時はモルヒネ150mg静注,モルヒネ徐放剤90mg経口はモルヒネ30mg静注に相当するため,合� �は180mgである。ボーラス用量は基準薬剤の約10%とされることから,1回の投与量は同症例では10〜20mgということになり,それを10分間隔で投与する。
メディカルトリビューン 2008年6月12日
「癌患者にとって疼痛は重大な医療上の問題である。癌患者の疼痛管理に関するガイドラインがあるにもかかわらず、十分な治療が行われていないという問題が蔓延している」とMario Negri薬理学研究所(イタリア)のDr. S. Deandreaらは記している。「疼痛管理指標は、患者が報告する疼痛程度と鎮痛療法の強度との合致度を評価する尺度である。負のスコアは、鎮痛薬の処方が不十分であることを意味する」。
レビュー担当の研究者らは「疼痛管理(pain management)」、「指標(index)」、「測定(measure)」という用語を用いてMEDLINE(医学情報サイト)を検索し、癌患者の不十分な疼痛管理について評価した研究を特定した。
「疼痛を伴う癌患者2例のうち1例近くが、十分な疼痛管理を受けていない」とレビュー担当の研究者らは記している。「この割合は高いが、研究および医療施設間で不十分な治療について大きなばらつきがみられる」。
「大規模患者サンプルを対象に鎮痛療法の質を評価する上で、疼痛管理指標は有用であると考えられる」と本研究の著者らは結論付けている。「疼痛の高い有病率を是正し、疼痛管理が無視されている状況下の障壁を取り除くため、指針を実行に移すにあたっては、今回の研究結果は重要な意味をもつ」。
m3.com 2008年7月31日
緩和ケアの中心はがん性疼痛管理 ペインクリニシャンに期待
兵庫医科大学病院ではペインクリニック部のなかに緩和ケアチームを設け,コンサルテーションだけでなく,介入的治療を積極的に行ってきた。活動状況が同大学疼痛制御科学の村川和重教授(ペインクリニック部長)から紹介された。同院では早くから,ペインクリニック部ががん性疼痛管理に取り組んできた。
同教授は,終末期の緩和ケアでは最近,より専門的なケアが求められる傾向にあり,その中心となるがん性疼痛管理において,高いレベルの知識や技術を持つペインクリニシャンが緩和医療の担い手として期待されていることを指摘。そのために,がん性疼痛だけでなく,疼痛全般の系統的治療への取り組みが重要になるとの考えを示した。
ペインクリニシャンの関与 緩和ケアに多くのメリットが
がん性疼痛管理の草分けの1人として知られる昭和大学病院緩和ケアセンターの樋口比登実センター長が、ペインクリニシャンが緩和ケアに携わることは多くのメリットがあると強調した。
同センター長は,ペインクリニシャンが緩和ケアに携わることで,痛みの確実な評価,薬物療法と神経ブロック療法� ��よる的確な疼痛管理が可能になり,患者のQOL向上とともに,経済的負担の軽減も図れるとした。
実際,ペインクリニシャンである同センター長が専従の形で就任した2001年以降,疼痛管理などの症状マネジメントの依頼が増加。2004年以降は2000年の約4倍に跳ね上がった(表)。全体の依頼件数は2002年の緩和ケア診療加算開始に伴ってさらに増加したが,モルヒネ製剤使用量は逆に著しく減少した。
神経ブロック療法の機会減少 ガイドライン通じ医療者の理解を
佐賀大学麻酔・蘇生学の平川奈緒美准教授は,がん性疼痛の治療法として多くの利点を持つ神経ブロック療法の機会が減少する傾向にあるとし,ガイドラインを通じ,関連する医療者の理解を深めていく必要性を訴えた。
同大学病院では20 05年8月,麻酔科ペインクリニックとは独立した形の緩和ケア科が新設された。
このような診療システムの変化に伴い,ペインクリニシャンはがん性疼痛患者とかかわる機会が減った。紹介患者の多くは終末期例で,既に神経ブロック療法の時期を逸している。このため,神経ブロック療法の施行件数も減少する傾向にあるという。同様の変化が他施設でも起きている。
同准教授は「神経ブロック療法には,痛みに関与する神経のみの選択的ブロック,長時間の鎮痛,鎮痛薬使用量の減少,薬物の意識や精神活動への影響排除など,多くの意義がある」とし「ガイドラインを通じ,がん性疼痛にかかわる医療者の神経ブロック療法に対する理解を深め,よりよい治療を目指したい」と述べた。
メディカルトリビューン 2008 年9月4日
ペンシルベニア州の痛み管理センター
エディンバラ大学(英)緩和医療部門のMarie Fallon教授らは,「がん長期生存者のための特別な支持療法モデルの開発が必要だ」と訴えている。
Fallon教授は,「がん長期生存者の多くは,緊急に対処されるべき要求が満たされず,治癒と非治癒の狭間で置き去りにされたまま生きている」と述べている。
同教授は「これまで緩和ケアで目指してきたことは,症状スペクトルの最期にある,すなわち死期が迫っている患者を援助することであった。しかし,がん長期生存者の数は増加しており,その多くはさまざまな症状を抱えながら生きているのが実状だ。自分の疾患は治癒するのか,自分が体験している症状は治療に由来するものなのか,あるいはいまだ診断されないがんの再発に関係があるのか,わからない患者もいるだろう」と指摘している。
さらに,同教授は「生存者はがん専門医による治療が終わった後,終末期患者が受けるようなケアや支援を受け� ��いない。しかし,がんとその治療が生存者の長期の健康に及ぼす影響は重大である。ほとんどのケースで多くの症状が残り,QOLは低い。また,不幸にもがんの再発を診断される患者もいる」と述べている。
同教授は「がん患者のための特別な支持療法モデルを開発することが必要だ。そして,従来の緩和ケアの専門知識がこのモデルにインプットされることが望ましい。生命と疾患は1つの連続体で,患者が必ずしも枠組みの明確なモデルにおさまるとは限らない。専門医としてのわれわれの課題は,この連続体を区分けすることではなく,その全体を受け入れ対応することだ」と指摘している。
メディカルトリビューン 2008年9月18日
「様々な質の小規模試験において、マッサージ療法が疼痛や他の症状を緩和する可能性が示唆されている」とコロラド大学デンバー校医学部のJean S. Kutner博士らは記している。
「進行癌に伴う疼痛は、身体的・精神的苦痛の原因となり、患者の機能的能力とQOLを低下させる。マッサージは、セラピストによる介入(存在感、コミュニケーション、治療効果を得たいという欲求)、リラクゼーション反応の誘発、血液・リンパ循環の亢進、鎮痛作用の増強、炎症と浮腫の低減、人の手による筋けいれんの解放、内因性エンドルフィンの放出増加、疼痛シグナルを無効にする競合的な感覚刺激を通じ、苦痛のサイクルを遮断する可能性がある」。
本研究の目的は、マッサージが進行癌患者の疼痛と苦痛症状を低減し、QOLを改善する効果について評価することであった。
「マッサージは、進行癌患者の疼痛と気分を即時的に改善する可能性がある」と本研究の著者らは記している。「持続的な効果がないことと、両群で改善がみられたことから、患者への気配りと簡単な身体への接触という手法が、本患者集団に有用である可能性も検討すべきである」。
m3.com 2008年11月6日
「終末期についての話し合いは、患者が死が近づいた時に受けたい医療に関する目標と期待を明確にする機会となる」と、Dana-Farber癌研究所(ボストン)のAlexi A. Wright博士らは論文で述べている。「しかしこれらの話し合いは、医学的治療の限界と、生命が限られているという現実に直面することも意味しており、これらは両方とも心理的ストレスを引き起こす可能性がある。
終末期についての話し合いによって患者の転帰が改善するというエビデンスがない状態では、医師らは患者の自律性を尊重したいという願望を、心理的な害を及ぼすという懸念と比較検討しなければならない」。
本研究の目的は、終末期についての臨床医との話し合いが、積極的治療がより少ないことと関連したかどうかを評価することであった。2002年9月から2008年2月まで、332組の進行癌患者と非公式な介護者を登録時から死亡時まで(中央値、4.4カ月間)追跡調査した。さらに、後に残された介護者の精神疾患と生活の質を中央値で6.5カ月後に評価した。
解析によると、「終末期についての話し合いは、死期が近づいたときに積極的な治療を減らすこと、およびホスピスへの紹介の時期が早いことと関連する」と、研究著者らは述べている。「積極的治療は患者の生活の質の低下および死別への適応不良と関連する」。
m3.com 2008年11月6日
痛みの経験については、「今感じている」(24%)、「かつてあった」(39%)と6割超の患者が経験。このうち、半数以上の患者が日常生活に支障を来していた。
また、痛みの治療を受けた669人に尋ねたところ、「完全にとれた」と答えたのは17%のみ。「ある程度とれた」(52%� ��、「あまりとれなかった」(10%)、「まったくとれなかった」(4%)--など、8割以上の患者に何らかの痛みが残っていた。痛みの治療の満足度でも、満足感を得られたのは57%にとどまった。
m3.com 2009年2月5日
同地域には、呉医療センターのほか、呉共済病院、中国労災病院など400床以上の公的病院が3つ、200床以上の公的病院が2つ存在する。
呉地域保健対策協議会は、これまでに、脳卒中のほか、C型肝炎、急性心筋梗塞など6つの疾患の地域連携パスを作成している。現在、同協議会では、緩和ケアを含めた5大がん� ��胃・肺・大腸・肝臓・乳がん)のマニュアル作成に取り組んでおり、今回は呉医療センター緩和ケア科長の砂田祥司氏が中心となって緩和ケアマニュアルを作成した。呉地域の緩和ケアの標準化を目指す。
マニュアルでは、WHO方式マニュアルについて記載しているが、砂田氏は、「WHO方式にこだわり過ぎると患者のQOLが低下する。患者ごとに細かな配慮をすることが重要」と注意を促した。
非オピオイド鎮痛薬のNSAIDsについては、「非常に使いやすい薬だが、胃潰瘍の予防が一番重要」とした。
マニュアルには、患者のオピオイドに対する誤解を解くためのポイントも記載している。
オピオイドは、使用量と予後には相関がなく、命を縮める副作用はないことや、医師の指導の下で適切に使用す� ��ば中毒になる可能性は非常に低いことなどを解説している。そのほか、オピオイドの使用目的や副作用を患者に説明するよう記している。
砂田氏は、「オピオイドを使用するに当たり、最低20-30分の説明が必要。ケースによっては、薬剤師・看護師の協力が必要」とし、関係者らに協力を求めた。
m3.com 2009年5月20日
薬物療法を基本に難治性疼痛には他の治療法も考慮
がん疼痛治療における薬物療法として,種々のオピオイド製剤が臨床導入され,現在も新たな製剤の開発が進められている。昭和大学病院緩和ケアセンター・樋口比登実センター長は,がん疼痛治療における薬物療法の現状を示し,薬物療法のみで多くの疼痛管理が可能であるが,それだけでは 解決できない難治性疼痛には,他の治療手段も考慮すべきであると述べた。
薬物療法のみでは約2割に疼痛残存
がん疼痛に対する薬物治療を巡る背景として,1986年にWHO方式がん疼痛治療法が発表され,オピオイドの使用が推奨された。わが国でも,この10年間における麻薬消費量の推移を見ると,モルヒネは減少傾向にあるものの,オキシコドンとフェンタニルが増加傾向を示し,諸外国と比べてまだ少ないが,全体としての麻薬の使用量は増加の一途をたどっている。国内の動きとしては,2006年度の病院・診療所における麻薬管理マニュアルの改訂により,麻薬の取り扱いが緩和され,2008年度には診療報酬改訂により,がん性疼痛緩和指導管理料が新設され,WHO方式がん疼痛治療法に基づいて「麻薬」を処方す る場合に算定が可能となり,これらは麻薬の使用増加を後押しするものと思われる。
"オーストラリアの子供の肥満"
こうした状況を踏まえ,樋口センター長は「オピオイド消費量の増加は,同薬の使用に対する抵抗感がなくなってきたためと思われるが,逆に痛みのアセスメントが十分になされないまま,安易に処方されることが多くなっているのではないか。薬物療法の基本は痛みのアセスメントであり,それによって適切に薬剤を選択しなければならない」と強調した。
がん疼痛に対する薬物療法に関しては,WHO方式がん疼痛治療法に基づいてモルヒネを中心とする鎮痛薬を適切に使用することにより,がん疼痛の約8割はコントロール可能であるとされている。しかし,約2割は薬物療法だけでは改善できない難治性疼痛であり,こうした場合は再度,痛みのアセ� �メントを行い,ペインクリニシャンや他科の医師と相談することが重要であり,必要に応じて神経ブロックや放射線療法などが施行される。
同センター長は「治療選択肢が多く,各科と連携が取れており,また,療養体制の調整がきちんとできているほど,良好な疼痛コントロールが可能であり,患者のQOLは向上すると思われる。がん疼痛管理において薬物療法が基本であることは間違いないが,多くの治療選択肢を備えておくことも重要である」と述べた。
メディカルトリビューン 2009年5月28日
今回も、東京大安田講堂で開催された公開講座で寄せられた質問に答えたいと思います。
「米国でがん検診の受診率が高いのはなぜか。数字が間違っているのでは」という質問をいただきました。
間違ってはいません。がん検診は、日本の場合、子宮頸がん、大腸がん、乳がん、肺がん、胃がんに有効といわれています。どんなに生活習慣に気をつけても、がんができる場合があります。そのようながんも、検診で早期発見できれば、治すことが可能です。ところが、最も有効と考えられる子宮頸がんでも、日本の受診率は2割程度です。一方、米国の女性の84%が受けています。乳がんなども、同様の傾向です。
米国の場合、医療費を抑え� ��意味からも病気の予防が重視されています。がん検診は基本的に無料、かかりつけ医やボランティアも受診を後押しします。日本でも、今後は開業医の役割が重要になるでしょう。
乳がんは、「自己検診」ができる唯一のがんです。風呂でタオルやスポンジを使わないで、手でお乳を洗ってみてください。脇の下にしこりがないかもチェックしてください。ご自身で乳がんを見つけた山田邦子さんの言葉ではありませんが、早期の場合、「肉まんに梅干しのタネ」のような感触が特徴です。
がんの症状をとる緩和ケアへの質問も目立ちました。まず、がんの痛みはゼロにできることを覚えましょう。切り札は、モルヒネなどの「医療用麻薬」です。飲み薬など普通の薬と同じように使います。がんの痛みはとった方が長生き する傾向もあります。しかし、日本の1人あたりの医療用麻薬の消費量は、米国の20分の1にすぎません。
「セカンドオピニオンを受けたいが、担当医が応じてくれない」という相談もありました。車など高価な商品を買うとき、多くの人がカタログを集めるでしょう。命がかかったがんの治療を納得して受けるには、なおさら「2番目の意見」が必要です。勇気を出してお願いしてみてください。そして、がんについての日本の実情を変えていくため、今必要なのは、学校でのがん教育と考えています。
毎日新聞 2009年6月9日
(1)身体的痛み(2)精神的痛み(3)社会的痛み(4)スピリチュアルな痛みからなる「全人的」なものとされる。定義したのは、世界初のホスピス病院を英国に開設したシシリー・ソンダース(1918―2005)。体の痛みを取り除くのがホスピス医療(緩和ケア)の大前提だが、現在はスピリチュアルな痛みのケアが重要視されている。定義は定まっていないが、死に直面して生じる自己消失の恐怖や、人生への悲痛などを指すとされる。
末期がんなど重い病にある人が「生きる意味がない」「死にたい」と口にしたとき、どう受け止めればいいのだろう?。ホスピス医療の実践者として知られる山崎章郎医師と、医療倫理が専門のカール・ベッカー京都大大学院教授が、死に直面した患者・家族の「痛み」について対談した。カウンセリングや傾聴の研修などに取り組んでいる「市民ホスピス・福岡」の主催(西日本新聞社など後援)。「自分らしく生きるということ 人間どこからきて どこへいくのか」と題し、8月1日に福岡市であった対談を紹介する。
●本当の話を
山崎 章郎氏 ホスピス医(以下、山) たくさんの患者の人生に同行してきた。がんの痛みは時に人間性を奪うほど強いが、(鎮痛薬で)取り除くことができる。しかし次第に体力が衰え、ベッド上で排せつせねばならなくなったり、シャワーを浴びたりできなくなると、死が近いと分かる。「もう終わりにしたい」と周囲に訴える場面が出てくる。スピリチュアルペインだ。
カール・ベッカー氏 医療倫理研究者(同、ベ) 私は末期のがん患者に「終わらせるべきことを終わらせましたか」と尋ねてきた。会場の皆さんも、遺言を書いていますか? 尊厳死宣言は?(数人のみ挙手) このように、やるべきことは残っている。特に尊厳死を望むのか延命治療を選ぶのかについては、決めておかないと後々まで家族を悩ませることにもなる。
山 亡くなるまでの数週間は体力の低下が著しく、話すことも書くことも難しくなる。私も「大切な話は今のうちに」と助言している。
ベ 感謝したり、仲直りしたい人はいませんか、とも聞く。「あなたは伝えたいことを伝えることができます」と。
山 やるべきことはたくさんある。自分の葬儀や、骨つぼを決めておきたいという患者もいた。死を認めるのはつらいが、認めてしまうと大事な話ができる。
「私はあとどれくらいですか」と患者によく聞かれる。その場合、私は逆に「あなたはどう思いますか」と尋ねる。「あと○日くらいでしょうか」と返ってくると「私もそう思います」と認めてしまう。本人は体が弱ってきたことを十分感じている。そんなことありませんよ、と否定してしまったらコミュニケーションは成立しない。
ベ 確かに死を認めるのはつらい。でも患者本人が一番話したいことは、自分はこれからどうなるのか、あの世とは何か、そして自分の人生は何だったか。本当に話したいことを口に出せないのはもっとつらい。
山 家族が本人の死期を認めず、本当の話ができなかったために後悔している家族はたくさんいる。重要なことは、うそをつかないことだ。
●そばにいる
山 「死にたい」と言われたら「一生懸命看病してきたのに」と自己否定されたと感じる家族もあるかもしれない。でも、あなたの訴えを私は理解していますよ、と受け止めることでつながりができる。
ベ 死にたい、という言葉は「一緒にいてほしい」ということではないか。病を治すことはできなくても、そばにいることはできる。
「生きる希望がない」と訴える患者もいるだろう。希望はかつて治療だったが、もはや治療はかなわない。私は「あの世で会いたい人はいるか」と聞く。「あの世なんてあるか分からん」と答える患者はいない。誰もが「○○に会いたい」と話してくれる。それもひとつの希望ではないか。
山 人は生きる意味を見失ったとき、自分の力を超えた大きなものとつながったり、または自分の内面に希望を見いだす力を持っている。「死にたい」と言い出したときは、本来持っている力を発揮し始めたととらえることもできるのでは。
ベ 人類はネアンデルタールの時代から、あの世があると考えてきた。宗教宗派の問題ではなく、死は終わりではないことを知っていた。阪神大震災の後には、亡くなった人の声や気配を感じた人がたくさんいる。それは否定すべき体験ではなく、大事な体験だ。
山 お盆に迎え火、送り火をするように、私たちは文化的情緒の中で生きている。死は別れではなく、また会いましょう、ということ。病は治ったとしても死は必ず訪れる。有限の時間の中で「次なる希望」を見いだしながら私たちは生きている。
西日本新聞 2009年8月24日
米の研究グループがプラセボ対照二重盲検によるパイロット試験
30年以上前に研究も長年放置されてきた領域,と著者ら
Grob氏らによると,進行がん患者の不安や絶望感などに対する幻覚薬の研究は1950〜70年代にかけて進められており一部では強力な改善効果も報告されたが,政治的・文化的な圧力により道半ばで中断されたという。
同氏らが今回着目した薬理作用が期待される幻覚物質の1つ,シロシビンはさまざまな種類のキノコに含まれており,体内で代謝を受け,セロトニン受容体のアゴニストとして作用し,幻覚作用を引き起こすことが知られている。同氏ら� ��,最近の臨床的検討からシロシビンはヒトの精神的健康への危険性がないことなども明らかになっていることから,以前の研究から35年以上を経た今回,研究を行うことにしたという。
対象となったのは36〜58歳,12例の進行がん患者(11例が女性)。4例は幻覚剤の使用経験がなかったが,8例は過去にLSDやマジックマッシュルーム,ペヨーテなどの使用歴があった。各症例はシロシビン0.2mg/kgおよびプラセボとしてナイアシン(ニコチン酸製剤)250mgの2つをそれぞれ別の機会に渡され,服用した。どちらの被検薬が渡されたかは治験担当薬剤師のみが把握していた。両被検薬の服薬セッションは数週間空けて設けられた。
各セッションの1日前から6か月までの評価が行われた。評価項目は血圧,心拍数,体温ならびに,うつや不安に関する調査票によるスコア。
セッション実施前後における生理学的な問題,いわゆるバッドトリップなどの精神的な安全性に関する問題は見られなかったほか,臨床的に有意な有害事象もなかった。不安に関する評価スコア(State-Trait Anxiety Inventory;STAI)がセッション開始前日に比べ,開始1か月,3か月で有意に改善していた。また,うつ症状(Beck Depression Inventory;BDI)についても6か月時点で有意な改善が認められた。
同氏らは今回のパイロット試験により,進行がん患者の不安やうつ症状の改善を目的とした中等用量のシロシビン投与の実施可能性と安全性が確認されたと結論。長年放置されてきたとも言えるこの領域で,今後の追加検証を行う必要性を支持するものとしている。
メディカルトリビューン 2010年9月9日
米・コホート研究
年齢層で疼痛出現率変わる
死期が近い人では,QOLの観点から疼痛管理に的を絞った治療に重点が置かれるようになる。しかし,Smith氏らによると,実際の疼痛管理は死亡する最後の年まで見過ごされがちであるという。
同氏らは,死期が近い人の疼痛保有率を調査するため,1994〜2006年にHRSに登録された一般住民のうち,しばしば出現する中等度以上の疼痛保有率の対面式調査記録がある4,703例の高齢者死亡データサンプル(平均年齢75.7歳,白色人種83.1%,男性52.3%)を用いた。なお,終末期診断は,がん(27.6%),心疾患(29.7%),虚弱(11.8%),突然死(16.7%),その他(14.2 %)であった。
年齢,性,人種などの因子で補正した後の疼痛保有率は,死亡の24カ月前の時点で26%であり,以降,4カ月前まで変化は見られなかった(28%)。しかし,3〜1カ月前になると,4カ月前に比べて疼痛保有率が有意に増加していることがわかった(46%)。
同調査から,66歳以上の場合,10歳増すごとに疼痛保有率が低下することも示さている。死の24カ月前,65歳以下では39%に見られた疼痛が,86歳以上では23%であり,この傾向が顕著に現れていたのは死ぬ1カ月前であった(60% vs. 42%)。
死の1カ月前における疼痛保有率は,関節炎例の60%,非関節炎例の26%にそれぞれ認められ,両者を比べると関節炎例で疼痛保有率が有意に高かったことから,関節炎と疼痛保有率との強い相関が明らかになった。一方,終末期診断におけるそれぞれの疼痛保有率〔がん(45%),心疾患(48%),虚弱(50%),突然死(42%)その他(47%)〕には差は見られなかった。
終末期における疼痛はQOLの低下に大きく影響することが指摘されている。Smith氏らは,疼痛は死亡する2年前から認められるため,慢性疾患患者においても終末期患者と同じように疼痛管理に目を向けるべきだと述べている。
メディカルトリビューン 2010年11月5日
同博士らは,苦痛緩和のための鎮静が適切な緩和ケアにおいて重要な役割を果たしている点を強調している。
副作用情報は伝えるべき
Mueller博士らは「人生の終末期を迎えた患者は,安楽を求める傾向にあり,負担や苦痛の除去が最重要となる。しかし,多くの医師は,緩和ケアの持つ倫理性の是非について疑問を感じており,延命治療の停止や苦痛緩和を目的とした治療をためらいがちだ」と指摘した上で「自殺幇助や安楽死とは異なり,延命治療の選択や苦痛緩和のための鎮静を行うことは倫理的になんら問題もない」と強調している。
苦痛緩和のための鎮静は,難治性あるいは耐えることのできない重度� �苦痛に対する重要な治療でもある。その一方で,同博士は「他の治療と同様,患者や代理人は副作用情報について知る必要がある。例えばこのような鎮静により,社会交流が難しくなったり,致命的ともなる誤嚥や呼吸障害を起こしたりするリスクがある」と述べ,「苦痛緩和や延命治療の倫理性が周知され,適切に施行されるようになることを願っている」と付け加えている。
メディカルトリビューン 2011年2月3日
高齢化とがん生存率の向上が疼痛問題を拡大
Green教授らによる今回の研究は,がん生存者の支援組織であるランス・アームストロング財団(テキサス州オースチン)の助成により行われたもので,200人近いがん生存者が対象となった。調査の結果,被験者の40%超が診断以後に疼痛を経験し,疼痛の経験は女性で多いことが明らかになった。また,疼痛関連の機能障害も多いことが分かった。
疼痛の原因として大きいものは,白人ではがんの手術(53.8%),� �フリカ系米国人では抗がん治療(46.2%)であった。女性は強い疼痛や疼痛再燃,痛みによる機能障害が多く,疼痛による抑うつも男性より頻繁に経験していた。また,疼痛を有するアフリカ系米国人では,疼痛の激しさを訴えることがより多く,疼痛治療の副作用についての懸念も多かった。
米国立がん研究所によると,現在では,がんと診断された人の60%超が最低5年は生存するという。同教授らは,社会の高齢化が進むと,疼痛の訴えは重大な健康上の懸念や保健政策の課題として大きくなってくると指摘。「がんや疼痛に苦しむ人が増え,がん生存者,特にアフリカ系米国人や女性の慢性疼痛の問題が大きくなりつつある中,がん治療の質をさらに向上させるためにわれわれが行うべきことは多い」と述べている。
メデ ィカルトリビューン 2011年4月7日
非がん性慢性疼痛には慎重に関節リウマチ(RA)や変形性関節症には有効な可能性も
こうした中,ライプチヒ大学病院〔独〕リウマチ科のMatthias Pierer博士らは,非がん性慢性疼痛に対してオピオイド鎮痛薬を使用する際の注意点について,Aktuelle Rheumatologie(2010; 35: 184-188)で解説。「非がん性慢性疼痛には慎重に使用する必要があるが,関節リウマチ(RA)や変形性関節症には有効な可能性もある」とした。
他の疼痛緩和療法と併用すべき
非がん性慢性疼痛へのオピオイド投与に関するデータは限られており,3週間〜3カ月間という短期間のランダム化比較試験しか実施されていない。
Pierer博士らが過去の文献を調査したところ,非がん性慢性疼痛に対する有効性を統計学的に示した試験は存在するものの,概してその効果は弱かったという。こうしたことから,同博士らは「非がん性慢性疼痛では,オピオイド鎮痛薬はオピオイドを含まない鎮痛薬と比べて疼痛緩和効果に優れているわけではない」と指摘。このため,非がん性慢性疼痛に対してオピオイド鎮痛薬の使 用を試みる場合は,必ず他の疼痛緩和療法と併用することを勧めている。
オピオイド鎮痛薬の投与を開始する際には,3週間以内にその患者の至適用量を決定し,痛みの強度に関する自覚的および他覚的なパラメータ,バイタルサイン,身体機能,依存性,臨床検査値を入念に記録する必要があるという。また,できれば追加で理学療法,心理療法,運動療法,またはそのいずれかの治療法を併用するのがよいとしている。
さらに同博士らは,3カ月後にいったん休薬して効果を確認することを推奨している。ただし,オピオイド鎮痛薬では,離脱症状が生じる可能性があるため,突然中止してはならない。休薬する場合は,毎日10%ずつ徐々に減量していくよう忠告している。
最新のガイドラインでも変形性関節症 への使用を支持
Piere博士らによると,オピオイド鎮痛薬の使用が特に有効なのはRAである。RA患者へのアンケートでは,患者の18%が極めて重度の疼痛,37%が重度の疼痛,33%が中等度の疼痛を有していることが判明している。この割合は,罹患期間が長い患者だけでなく,2年以内に発症した患者でも同様であった。
同博士らは「こうした疼痛に対するオピオイド鎮痛薬の長期的使用を検証した研究は極めて少ない。しかし,いくつかの研究では,同薬によりRA患者の身体機能と睡眠が改善することが認められており,RAへの使用が推奨される理由となっている」と説明している。
さらに,最新のガイドラインは,変形性股関節症や変形性膝関節症など変形性関節症に対しても,オピオイド鎮痛薬を使用すること を支持している。特に,短期的な使用は有効かつ比較的安全とされているが,その有効性と安全性に関して,パラセタモールや非ステロイド抗炎症薬(NSAID)と直接比較した試験は存在しない。ただし,いくつかの研究で,強オピオイド鎮痛薬(フルアゴニスト)であれば,パラセタモールやNSAIDよりも高い効果が得られることが示唆されているという。
以上から,同博士らは「リウマチ性疾患による慢性疼痛に対してオピオイド鎮痛薬を投与する場合は,必ず個々の患者の状態を見極めながら,個別に治療計画を策定していかなければならない」と総括している。
メディカルトリビューン 2011年4月7日
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